全国で生産される海苔の枚数は95億枚から100億枚程度である。
海苔生産は、毎年11月から始まり、翌年の4月末までの約半年間続けられる。この半年の間に
生産された海苔を海苔販売業者が、生産期間中に行なわれる入札によってすべて買い上げ、
品質の劣化を防止するため、再度乾燥したり、冷蔵庫に保管したりして必要数量だけを商品に
製造し、1年間にわたって販売するのが現在の流通の仕組みになっている。
(共同販売)
生産者によって生産された海苔は、生産者の手によって製品の品質ごとに仕分けされ、10枚を
二つ折りにして1束にし、それを組合名、生産者名、生産した日付けが印刷された、組合指定の
紙テープで10束(100枚)一括りにする。これを18束(3,600枚)箱詰めする。
箱詰めされたものを、組合の品質検査を行なう集荷場に運び込んで、検査員による品質検査が行なわれる。多くの組合員が出品した海苔を一箱づつ検査して、等級ごとにまとめられる(検査
基準は「海苔のお話・品質と等級」の項参照)。組合ごとに品質、等級を検査してまとめられたものが、上部指導組織の漁業協同組合連合会に持ち寄られる。
持ち寄られた海苔は、一つの格付でも50箱以上2,000箱になるため、同じ格付の同じ等級の中から数箱を見本として抜き出し、組合別に格下の等級から順に入札会場に並べられます。
海苔は漁業協同組合に所属する組合員が、生産したものを持ち寄って販売する共同販売の方法をとっている。
(見付け)
入札会場では、漁業協同組合連合会によって許可された入札指定業者(業界での通称は
「商社」)が、並べられた見本を見ながら、値踏みをすることを「見付け」と呼んでいる。
見付けは、広い会場に組合ごとに、正等級(立派に作られた海苔を集めたもの)、B等級(海苔が四角になっていなかったりして正等級にならないもの)、くもり等級(正等級より艶がくすんでいるもの)、穴・○等級(海苔に穴があいているもの)などの格付別に特等から7等までの数百箱の見本が並んでいる。
その並びと同じように、組合別に格付と等級、数量を列記した「入札手板」と言われる価格記入
のための冊子が商社一人一人に渡され、下見をしながら見付け価格(予定価格)を記入する。
指定商社の見付けの基準は、その産地の生産枚数、今後の生産予想枚数、品質の良し悪し、
全国的な生産状況と今後の見通し、業者の手持在庫量、売れ行きの見通し、競争相手業者の
買付状況−などの情報である。これらを頭に入れて、総合的な判断によって買付価格を決めなければならない。
入札指定商社の決定権は、各県内の地域漁業協同組合が集結して組織している各県の漁業協同組合連合会が認可する。認可基準は、商社の経営内容、販売状況などを加味した信用度が中心になる。指定商社は、毎年信用度の審査が行なわれ、指定権を得た商社は、一定額の保証金を積むことになっている。したがって、海苔業者すべてが入札権を持っているわけではない(全国海苔業者推定約2,000社の内約640社が指定商社)。
海苔質には、張り込んだ網から最初に摘む「初摘み」(一番摘み、うぶ海苔などとも言われる)、「二番摘み」などの軟らかい海苔質は、上質の海苔として「贈答品」などの原料に使われる。
毎年生産される枚数が少なく、とうぜん高い価格で落札されている。質の良い産地の海苔は、枚数は少ないが1枚・100円以上の価格で落札されるものもある。
二番摘み以降の海苔は、すし、焼海苔、味付け海苔、きざみ海苔、もみ海苔などに使われるもので、用途によって、いろいろの質の海苔が買われており、品質と価格は、味付け海苔、焼海苔などの商品を製造する業者や入札権を持たない業者に販売する問屋業務を中心にする業者ではそれぞれに違いがあり、見本の海苔を手に取り、海苔質を十分に見ながら、値踏みをする。
(入札)
十分に下見をした海苔について、格付、等級別に入札することになるが、入札の方法は、電卓と同じような端末の数字ボタンを押して、価格が電光掲示板に表示される電子入札と、「入札手板」に直接価格を書き込んで、決められた時間までに漁連の係りに提出し、参加商社の価格が出揃ったところで最高値を読み上げて発表する−二通りの方法がある。
入札は、指定商社それぞれが1社ごとに入札価格を提出することになると、発表までに時間が
かかり、間違いが起き易い事もあって、商社の中でお互いに取引関係にある商社、仲の良い商社ごとに数社のグループを作り、グループごとに必要な海苔の価格を決めて提出する方法がとられている。
これによって、一つの等級で500箱から1,000箱以上まとまったものについては、グループ内で同じ価格で分け合って買うことが出来る利点がある。グループ内の価格は話し合いで決められることもあるが、他のグループとは、競争関係にあり、漁連の入札会で、全体の価格の談合は有り得ない。海苔は、養殖とはいえ、気象や海況に大きな影響を受けて育つ自然食品であるため、必要な海苔質は、冬場の半年の生産時期で、限られた期間しか生産されないため、それを確保するための競争が行なわれる。同じグループとは言え、市場では競争相手になる。お互い厳しい生産環境の中での原料仕入れ競争で、談合で馴れ合いの価格を付けていては仕入れ競争に負けることになり、談合どころではない−というのが現実である。
海苔は、11月から翌年4月までの6ヶ月間生産されるが、生産されたものはすべて、生産期間中に入札によって販売される仕組みになっている。したがって、入札指定権を持つ商社は、次の年の新海苔生産まで売り繋ぐための原料を6ヶ月で仕入れる必要があり、その分の資金も用意しておかなければならない。その資金は、少ない商社でも2,000万円は必要で、大きな商社になると20億円から50億円の資金が必要になる。最も大きな仕入れをする商社では、約200億円の資金を使っている。
(保管)
海苔が全自動海苔製造機で製造された段階では12%の水分を含んでいる。そのまま、常温状態で保存しておくと6ヶ月程度で海苔が蒸れて変質し、紫色になってしまう。そこで、入札した海苔は香が抜けないうちに、もう一度乾燥して2〜3%の水分量までに乾かして置かなければならない。この、再乾燥の工程を「火入れ」と言う。
「火入れ」と言うのは、昭和30年代まで、入札で仕入れた海苔を箱から出して、木製の中段付き乾燥室に並べ、乾燥室の下から炭火で5〜6時間程度乾燥していた時の呼称で、乾燥室の下に火を入れて乾かしていたため「火を入れる」といったことの名残である。
現在は、大型の金属製乾燥装置で3時間程度かけて自動的に乾燥している。また、火入れ乾燥を行う倉庫業者があり、入札業者との契約で火入れ業務を行い、自社の保管倉庫に保存して貰う
方法も取られている。
海苔商社は、11月から4月までの6ヵ月の生産期に必要な原料を、その年に使う海苔と次の年の生産が始まるまでの繋ぎとして、少なくとも3ヶ月分程度は余分に確保しておかなければ、消費者に安定した商品の供給が出来なくなる恐れがある。「火入れ」は、品質を落とさずに保管するための方法であるが、上質の海苔は、海苔箱に入れたまま、マイナス25℃程度の冷蔵庫に保管している。長期間鮮度を保ったまま保存できる。
(消費)
海苔の消費状況は掴みにくい。
生産枚数は全国の共販体制が確立されており、販売枚数のほとんどが生産枚数
である。
共販に出品されない直販売(生産者が海苔業者や消費者に直接販売するもの)や直消費(生産者の自家消費、近親者に直接贈るもの)は全体の3%以下と見られている。
国内生産枚数は、その年の気象、海況によって変動があるが、過去5年間の平均生産枚数は
約95億枚である。
このところ、ギフト商品や味付け海苔の需要が減少しており、海苔の消費枚数は90億枚程度と見られている。海苔生産団体の推定による、消費状態は次ぎの通りである。
◇家庭用(味付け海苔、焼海苔など) =30%(約30億枚)
◇贈答品(デパート、スーパーなど) =10%(約 9億枚)
◇業務用(おにぎり、弁当、すしなど)=60%(約51億枚)
特に、コンビニエンスをはじめ、おにぎり専門店で使われる海苔の枚数は、業務用の中の
70%(約35億枚)以上に達すると見られている。
商品別の消費動向を見ると、おおよそ次のようになる。
《加工海苔》
味付け海苔、焼き海苔、きざみ海苔などを、業界では「加工海苔」と呼称している。
この製品は「食品のり公正取引規則」(「海苔関係法令」の欄参照)によって、商品の製造基準が決められている。一般に販売されている小袋入りの商品は、1袋に全形1枚分以上入れることになっており、最も多い商品は、6切・6枚、8切・8枚などの商品がある。
また、短冊に切った海苔で6束〜50束入った商品は、通常1束に12切(全形を12等分したもの)・5枚以上入れることになっている。
海苔生産量の約30%がこれらの加工海苔商品になっている。業界では、海苔を安い価格で消費者に提供しようと、低価格品質の海苔による味付け海苔販売競争を行っていたが、海苔本来のおいしさも提供しなければ、海苔消費の低迷を招くとして、近年では、比較的質の良い海苔を原料にして商品化している。
また、海苔の加工業者が商品化している、「海苔茶漬け」や「海苔ふりかけ」などの消費も増えている。海苔専門業者として、海苔質にこだわりを持った商品が多いようだ。
《贈答商品》
かつては、デパートで売れる贈答品の中でもトップの地位を占めていたが、近年では7位以下に低迷している。生産数量の約9%が贈答商品の原料と見られている。
有明海で生産された海苔が贈答商品の主要な原料として使われているが、全国各産地の初摘みは味も良く、柔らかい海苔が多く、贈答商品の原料に使われている。
近年では、「生産者の顔の見える商品」が消費者に好まれており、海苔もそのような商品が一部に見られるようになっている。
《業務用》
海苔業界での業務用は、主として、おにぎり、弁当、すし、佃煮などの他業界に原料として販売されるものを指している。
この部分で使われている海苔の量は、約60億枚と言われ、全生産数量の約60%を占めている。
特に、おにぎり、弁当に使われる海苔の量が大きく、すし屋さんへの販売量を大きく引き離している。中でも、コンビニエンスストアのおにぎりに使われる海苔の量は、30億枚強になると見られ、全生産数量の30%以上になるようだ。かつての業務用は「すし」向けを指していた。
海苔の生産から消費までの流通経路図は別表(PDFファイル)の通り。
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